食品が傷む主な理由と、それに対する冷凍・解凍のメリットとデメリットについて解説します。酸化オジサンが食品の保存に関する知識を分かりやすく解説します。
食品が傷む理由
食品が傷むことは食品の細胞が壊れることです。では、細胞が壊れる主な理由を酸化オジサン目線で紹介します。それは大きく分けて3つあります。
- 時間と共に壊れる
- 酸化により壊れる
- 菌(バクテリア)により壊れる
では、それぞれについて少し詳しく説明してみます。
時間と共に壊れる
タンパク質の変性(熟成から腐敗へ)
多くの生物は生命としての死後まず死後硬直(生命エネルギーの ATP/アデノシン三リン酸)により、ある意味では細胞保護の状態をむかえます。肉や魚のタンパク質はその ATP の消費(死後硬直の解除)と共に変性して行きます。そして肉を例にするとアミノ酸(イノシン酸)となった後の段階が腐敗となります。基本的には全て時間と共に変性して行きます。
細胞の自己崩壊
まさに新陳代謝に含まれる機能で、細胞は生きている限り、毎日死に、また毎日生まれます。この『生きている限り』がポイントです。この毎日死ぬように細胞はプログラムされているので「プログラム細胞死」と言われています。死後、生命エネルギー/ATPにより守られますが、前述の通り時間と共に消費される為、細胞はプログラムされた機能によって死に向かっていきます。この仕組みにより時間と共に食べ物は傷んで行きます。
酸化により壊れる
テレビ・コマーシャルでも良く聞こえてくる抗酸化の逆の言葉なので、なんとなく「酸化」には悪い印象をお持ちの方も多いと思います。事実、酸化は様々なモノを傷つけ、ダメージを与えます。誰もが知っていることではありますが、金属のサビ、樹脂(ゴムやプラスチック)の劣化など、水の劣化も酸化が大きく導きます。そして、繊細でデリケートな細胞はもちろん、食べ物や薬にまでその劣化には酸化が大きな原因となります。その為、食べ物ではそれぞれ沢山の対策をしています。具体的には、お菓子に砂糖の粉をかけるのも、揚げ物にレモン添えるのも、ワインに亜硫酸塩が入っているのも、これらは全て酸化抑制の為に使用されています。またお肉や魚の変色・退色などもその多くは酸化ダメージです。
菌(バクテリア)により壊れる
菌(バクテリア/一般生菌)により傷むことは誰にでも想像しやすいことです。では何故バクテリアは増えるのか。バクテリアが増える理由を紹介します。食品にはバクテリアにとって美味しい養分があり、その養分によりバクテリアは増えて行きます。そして食品の組織が壊れるとその養分をたくさん含んだ水分(ドリップ)が流れ出てきます。そのドリップにより、さらにバクテリアは加速度的に増え、どんどんその組織は壊され、ますますバクテリアは増えて行き、結果として食べ物は腐敗して行きます。
冷凍と解凍のメリット
冷凍のメリットは食べ物が傷むわけである3つ、①時間と伴う細胞の劣化、②酸化による劣化、③バクテリアによる劣化、これらを抑えてくれます。また、冷凍時・冷凍保管時・解凍時にも食品へのダメージが無いわけではありませんが、以下のメリットがあります。①の時間に伴い劣化する細胞の活動をほとんど止められるので劣化が抑えられます。次に、②の酸化による劣化についても、冷凍温度は食品ではマイナス 18℃以下とされています。その低温により酸化についてもある程度抑制されます。そして、③のバクテリアによる劣化ですが、マイナス温度帯ではバクテリアは活動出来ない環境なのでこちらは完全に抑え込めます。
しかしながら、冷凍時と冷凍保管時も、そして解凍時にも起こるダメージがあるのです。それらのダメージについて考えるために、先ずは良い冷凍方法について考えてみましょう。
良い凍結は「急速冷凍」と考えている方が多いかと思います。それは正しいことなのですが、例えば、スパイダーマンなどのアメリカンコミックで瞬時に凍るシーンなどがありますが…あのシーンの様に『表面と中心が同時に凍ることが出来る「瞬間」凍結が理想的な急速凍結』です。しかし現実には未だその様な技術は今の世には存在していません。とは言え、今ある技術の中で水が氷へと物性が変わる時に生じる(体積が増える・硬くなる)ことによるダメージを少しでも減らすにはやはり『急速凍結』が有効です。
では、なぜ急速冷凍が有効なのでしょうか?水が氷になるとその物性は変わり、体積が大きくなり、硬くなります。また温度は基本的に外から中へ伝達されていきます。急速凍結の反対の緩慢凍結では外から中に(薄い)層ごとに氷が出来て行きます。薄い層ごとに氷が出来ると、食材の外から中心まで水が氷になる時の体積と硬さの変化により、外側から中に向かってほとんどの細胞が傷つけられていくことになります。一方で急速凍結では、かなりの冷却エネルギーを食材に与え、食材の中の水分が同時に氷となる層の幅を厚くすることが出来ます。そうすることで、水の体積と硬さの変化が細胞に与えるダメージを少なくすることが出来ます。
冷凍・解凍のデメリット
でも急速凍結にはデメリットがあります。
急速凍結の問題点
- イニシャル(機械設備導入)コスト
- ランニング(日々の電気使用)コスト
- 排熱問題
これら全てには、温室効果ガスを含めて環境負荷が伴ってしまいます。しかも頑張って急速凍結したとしても、ダメージの無い冷凍は存在しないのです。その上で冷凍精度は素材の鮮度(ATPアデノシン三リン酸)と組成が決定します。よって、ほとんどの野菜や果物は細胞組織が弱く、また水分率も高い為、冷凍の耐性は低く、冷凍耐性のある肉や魚でもその鮮度が落ちたものを冷凍すると冷凍精度は低くなります。
さて、急速凍結が良いことと、その良い冷凍に伴う問題については案内しましたが、冷凍しても酸化影響からは逃げられません。冷凍に限らず、温度が高ければ酸化反応は強く早くなり、低いほど酸化反応は弱くおそくなります。それでもやはり、酸化影響から逃れることは出来ません。医療系の研究室では少しでも酸化に抗う為に、液体窒素やマイナス80℃の冷凍庫を使用します。食品でも酸化反応が強いマグロなどはマイナス 50℃などの低温で冷凍保存しています。「冷凍やけ」は、まさに冷凍が酸化劣化を完全には抑え込めないという事実の表れなのです。
基本的には冷凍時にも解凍時にもダメージが伴います。
冷凍・解凍によるダメージは水が氷に変わること、氷が水に変わることが問題なのです。当たり前のことですが、水(液体)氷(固体)ですね。水と氷のそれぞれに体積と硬さの変化があります。凍ると水の体積は増え、固体になり、硬くなり、とけると体積が減り、液体になり、軟らかくなります。
この水の体積の変化が細胞へのダメージとなり、同時に解凍には温度が高くなることが伴うために、酸化によるダメージも加わります。それらのダメージは水分の流出(ドリップ)で表れ、そのドリップに含まれる養分により、菌(バクテリア/一般生菌)が増え、腐敗へとどんどん進んで行きます。
腐る前がおいしい
「腐る前がおいしい」ってホントなのです。前述の通り、死後硬直(ATP)の解除と共にタンパク質は腐敗に向かいつつ、変性を続けていきます。その中にアミノ酸(うま味成分)に変性し、しかも増えて行く時間があります。そのうま味が増える限界を越え、次なるものにタンパク質が更に変性するとその時点から腐敗に向かって行きます。そのうま味が増える限界がいわゆる「熟成」であり「腐る前」なのです。
まとめ
食品が傷む理由と、冷凍・解凍のメリット・デメリットについて理解することで、食品を美味しく、安全に保存するための知識が深まります。酸化オジサンのアドバイスを参考に、ぜひ日常の食生活に役立ててください。
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